細々亭日乗

闘わない白血病患者の細々とした日記です

今日はお誕生日

はじめまして、このブログを読んでくれてありがとうございます。さめざめとお呼びください。今日のブログの前に、必ずaboutをご一読ください。

 

今日は令和のはじまりの日であり、わたしの最後のお誕生日です。ほんの一瞬なのでしょうが、新しい世を生きられることを喜びましょう。ちなみに、平成最後の夜(おそらく、人生最後のお祭り騒ぎの夜です)はAmazonプライム・ビデオでポプテピピックというアニメを観ていていつのまにか寝てしまいました。

 

朝はいつも6時ごろ起きて、まず検温をし、病院から渡されている記録用紙に記入します。突然ですが、わたしは現在が何月何日か曖昧な人間かつ、勤勉で律儀な割には雑で迂闊な人間であります。表形式の記録用紙などの日付の欄を埋めなければならないとつい、前日の日付に1足して書いてしまう。そういう習性です。

 

昨日は4月30日。というわけで、今日は4月31日でした。一度だけ、わたしの中でだけ。自分の誕生日と改元のタイミングとが重なった日ですらこの有様とは情けない。深く反省し、今後はきちんとカレンダーを確認することを誓います。

 

午前中には祖母が訪ねてくれました。わたしを溺愛して育ててくれた親族の筆頭です。最後のお誕生日だというのに、実家で誕生日ケーキを頬張る姿を見せられませんでした。八十まで生きて可愛い初孫に先立たれる祖母が哀れでなりません。孫はわたし一人ではなく、わたしがその中で最も冷たく愛情のない性格をしていることが救いです。(十以上離れた若いわたしのいとこ達は、みな優しく朗らかです。わたしとの共通点といえば、仮面ライダーのオタクであることくらい)

 

祖母はバースデーカードとお金をプレゼントしてくれました。カードはバースデーケーキの柄で、ケーキを食べられないわたしのために選んでくれたそうです。(免疫力がほぼない状態ですから、院外から生果物や生クリームで構成されたケーキを持ち込んで食すというのは許可されないわけです)元気になったらどこに行こうか、と話をしました。祖母は温泉を希望していましたが、難しい、というかありえないでしょう。(移植後、国内旅行が可能になるまでざっと1年以上の寛解期間が必要ですし、温泉となればそれ以上です)わたしの見立てでは、わたしは移植関連死、生着不全、早期再々発のいずれかで二度と退院できないまま今年のうちに死にます。それでも、約束はしました。

 

祖母はまた訪ねてくれるそうです。なにか、それまでに絵を描いておこうと決めました。

 

昼過ぎには、大学1年からの友人四人が訪ねてくれました。(精神状態と病状を考慮され、個室に入院させて頂いております)令和のはじまりとわたしの誕生日を祝っての会合です。色々な話で4時間ほど盛り上がりました。以下、肉類がとても苦手な友人を中心とした会話です。

 

友達1号「わたしほんとうに肉が駄目で……たぶん、前世で屠殺されたんだと思う」

友達2号「そういえば、真逆の人を知ってる。友達に逆ヴィーガンみたいな奴がいるよ。野菜はほとんど食べなくて、肉ばっかり食べてるんだけど。あいつの前世、牛に食べられた草かなんかかな」

友達3号「相当酷い食べられかたをした牧草?踏まれて、発酵させられて……」

友達4号「サイロの中、つらかったのかな」

 

サイロの中で「つらい……」と思っている牧草、想像するとなんだかかわいいし面白いです。他には、サンリオキャラクターのハンギョドンは中国出身のハン・ギョドンさん(漢字で書くと半魚丼)であることを教えてもらったりしました。ハンギョドンの出自は面白いので、ぜひ一度チェックしてみてください。プロフィールは、サンリオ公式ページよりWikipediaのほうが詳しいです。

 

誕生日プレゼントに色々と愉快なものや面白そうな本をもらいました。わたしはシオランが好きですが、誕生を肯定されれば嬉しいです。急なことでこちらからは何も用意できませんでしたので、「暑中見舞いを書きたい」と言って住所を教えてもらうことにしました。(なにしろSNS世代でして、Twitterや LINEのアカウントは知っているけれど電話番号、もっと悪ければメールアドレスすら知らない友達がほとんどなのです)なにかそれぞれが喜びそうなものをAmazonあたりから送ろうと思います。訃報もこれで届けられるでしょう。

 

……期せずしてわたしの最後のお誕生日を祝うことになってしまった彼らのことが、心配です。(みな立派な人物なので、それはそれとして生きていってくれることはわかっているのですが)わたしの母は、若い頃に同い年の友人を白血病で亡くしました。それから二十年以上の時が過ぎても悲しみは消えないようです。わたしは今日、笑顔でした。わたしの笑い声が、彼らを喪失の痛みに舫うものとなりませんように。

 

世間は10連休らしく、ありがたいことに明日以降も友人や後輩が病室を訪ねてくれるとのこと。せっかくの休日だというのに、混んでいる公共交通機関に乗って病人に会いに来てくれたのですから、せめて元気に愉快な話題で盛り上がりたいものです。わたしの周りは面白い人しかいません。そう身構えなくとも笑いの絶えない時間になることは、わかっているのですが……。生来、空気が読めず愛想もなく性格がひずんでいるのを、経験と学習で取り繕って生きてきたわたしはどうしても気が張ってしまうのです。